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5日目、6日目の胚盤胞凍結時の細胞のサイズと染色体解析 (第58回 日本卵子学会)学術奨励賞口演部門受賞
〇松田 有希野1)、加藤 武馬2)、吉貝 香里1)、新井 千登勢1)、中野 英子1)、澤田 富夫1)、倉橋 浩樹2)
1)さわだウィメンズクリニック、2)藤田保健衛生大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門
目的
我々は、以前に胚盤胞の形態学的評価と染色体の正倍数性は一致しないという報告をした。しかし、本邦では着床前スクリーニングは認められていないため、移植に用いる胚は形態評価に頼らざるを得ない。よって今回、胚盤胞の大きさと染色体異常との関連をEmbryo ScopeTM(ES)とNGSを用いて調べた。
方法
正常受精した胚を5日目(D5)または6日目(D6)で胚盤胞凍結した。後に、廃棄となり患者の同意を得られた胚盤胞(D5胚盤胞22個、D6胚盤胞8個)をNGSにより染色体解析を行った。胚盤胞の大きさは、ESを用いて、凍結直前の最終拡張時胚盤胞の画像から直径2箇所の平均長を求めた。患者平均年齢は35.2±4.2歳であった。
結果
D5での染色体正常胚は8個(36.4%)、染色体異常胚は14個(63.6%)であった。平均年齢は染色体正倍数胚で34.1±2.7歳、染色体異数胚で35.9±4.0歳であり有意差はなかった。しかし、胚盤胞の大きさで、染色体正倍数胚で175.9±10.1㎛、染色体異数胚で143.1±30.5㎛となり染色体正倍数胚が染色体異数胚より有意に大きかった。D6での染色体正倍数胚は2個(25.0%)、染色体異数胚は6個(75.0%)であった。平均年齢は染色体正倍数胚で33.5±7.5歳、染色体異数胚で35.3±3.9歳であり有意差はなかった。胚盤胞の大きさは、染色体正倍数胚で202.5±10.0㎛、染色体異数胚で158.1±30.7㎛であり、有意差はないものの染色体正倍数胚のほうが染色体異数胚より大きいことがわかった。
考察
今回の検討では、染色体正倍数胚と異数胚の間に年齢による差がないことから、どの年代であってもD5凍結時170㎛、D6凍結時200㎛まで胚盤胞が大きくなっていることを確認してから凍結することにより正倍数胚を移植できる確率が高くなると期待される。
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NGSを用いたTE・ICM間における核型一致率の比較 (第58回 日本卵子学会)学術奨励賞口演部門受賞
吉貝香里1,2 加藤武馬2 松田有希野1,2 新井千登勢1 浅井菜緒美1 中野英子1
澤田富夫1 倉橋浩樹2
1さわだウィメンズクリニック、2藤田保健衛生大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門
目的
近年、PGSやPGDの生検に胚盤胞期における栄養外胚葉(TE)が用いられることが多い。割球生検と比較してTE生検が胚の着床に影響しないことが報告されているが、TEで観察された染色体核型が内細胞塊(ICM)を反映していないという報告もある。(これまでFISHやアレイCGHを用いて、ICM/TEの染色体核型の比較解析が行われてきたが、報告毎に結果が異なり、統一した見解は得られていない。)そこで我々は、モザイク型染色体異常や微細な構造異常の検出が可能なNGSを用いて、同胞TEとICMを比較し、TE生検が胚盤胞期におけるICMの核型を反映しているか解析を行った。
対象・方法
2010年~2015年までに採卵後凍結し、廃棄となった18症例24個の胚盤胞を用い、患者同意を得て研究を行った。患者年齢は34.5±3.6歳であった。TEを3時の位置で1か所採取(TE1)、6時または12時の位置で採取(TE2)、さらにICMをそれぞれ採取し、核型の比較検討を行った。
結果
ICMとTEの核型一致率は52.9%であった。そのうち、ICM/TEともに正倍数を示す胚は12個 (35.3%) であった。核型が不一致となり、どちらかに染色体異常を有した胚はモザイク異常であり、TEで検出された異常がICMで検出されないものは32.4%、逆にICMで検出された異常がTEで検出されないものは14.7%であった。
同胞TE間の比較では、一致率は50.0%であり、不一致核型にはモザイク異常が認められた。
結論
ICMと3時の位置のTEのそれぞれの染色体解析で、約半数の胚で核型が一致しないことが明らかとなった。モザイク異常はICMよりもTEに多く見られたことから、初期胚で染色体異常が発生したモザイク異常を有する細胞の多くは、TEへと分化する傾向がある。または、ICMにモザイク異常がある場合には、異常細胞が細胞死するか、胚盤胞まで到達せずに発生停止となっている可能性も考えられる。PGS/PGDにおいて、TEでモザイク型の染色体異常が見られたときに、ICMでは正倍数性の核型を持つ可能性もあるため、移植する胚の決定には、モザイク染色体異常を持つ胚について、慎重に扱う必要があることが示唆された。
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NGSによる胚解析からみた染色体異常の発生要因の検討 (第62回 日本生殖医学会)
〇松田 有希野1)、加藤 武馬2)、吉貝 香里1)、浅井 菜緒美1)、新井 千登勢1)、中野 英子1)、倉橋 浩樹2) 、澤田 富夫1)
1)さわだウィメンズクリニック、2)藤田保健衛生大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門
目的
近年、染色体異常の発生は刺激法や胚操作などの外的要因よって左右されるという報告がある。また、施設間での格差がでていることも報告されているため、当院での染色体異常の発生頻度を検討した。
方法
採卵後、IVFまたはICSIにて媒精を行い、正常受精し凍結保存した83個の胚を対象とした。対象とした廃棄胚は患者の同意を得て、研究に使用した。染色体解析の結果は、正倍数胚群、構成型異数胚群、モザイク群、構成型の異常とモザイクを併せ持つ混合群にわけた。検討項目は、患者年齢、刺激方法、媒精方法、ICSI施行者、hMG総投与量とした。
結果
患者年齢は正倍数胚群で32.8±3.8歳、構成型異数胚群で35.9±4.2歳、モザイク群で33.8±3.2歳、混合群で35.2±2.6歳となり、正倍数胚群と比較して、構成型異数胚群と混合群で有意に年齢が高かった。刺激方法では、Long法では、モザイク異常の発生がantagonist法やクロミッド法より有意に低かった。媒精方法の検討においては、c-IVFとICSIで有意差は認められなかった。ICSI施行者の違いによる差異も認められなかった。また、hMG総投与量では、染色体正倍数胚で1656.3±542.4IU、構成型異数胚群で1783.4±619.0IU、モザイク群で1442.3±613.7IU、混合群で1525.0±466.4IUとなり有意差は認められなかった。
考察
今回の結果から、女性の年齢上昇に伴い、構成型の染色体異常が増えることが明らかとなった。また、モザイク異常は年齢に関係なく発生していたため、若年者の発生停止胚や胚変性の主な原因であると考えられた。刺激方法では、モザイク型異常の発生が低かったことから、Long法を行える患者については第一選択としたほうがよいと考える。さらに、当院では媒精方法やICSI施行者によって有意差がないことから、外的要因の影響は少ないと考えられた。 閉じる -
胚盤胞腔に見られる染色体核型の由来 (第62回 日本生殖医学会)
〇吉貝香里1、松田有希野1、加藤武馬2、加藤麻希2、新井千登勢1、浅井菜緒美1、中野英子1、倉橋浩樹2、澤田富夫1
1さわだウィメンズクリニック、2藤田保健衛生大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門
目的
近年、PGSやPGDの生検に胚盤胞期における栄養外胚葉(TE)が用いられることが多い。割球生検と比較してTE生検が胚の着床に影響しないことが報告されているが、TEで観察された染色体核型が内細胞塊(ICM)を反映していないという報告もある。また、侵襲性の低い方法として、胚盤胞期における胚盤胞内部の液体である胞胚腔液(Blastocoele fluid:BF)を用いる方法も着目されている。
方法
2017年1月~3月までに採卵し、当院の凍結基準を満たさず廃棄となった21個の胚盤胞を用い、患者同意を得て研究を行った。患者年齢は33.8±3.6歳であった。胚盤胞期のICM, TE, BFをそれぞれ採取し、全ゲノム増幅後、次世代シーケンサーで染色体検査を行った。次に得られた結果からBFが初期胚の染色体検査に有用か、またBFに存在する核型の由来をICMとTEで比較した。
結果
BFから全ゲノム増幅した検体は18/21で、増幅DNA量がICMやTEと比較して少なかった。また染色体解析の結果、ICMやTEと比較してノイズが高く核型の判定が不能となる検体が多かった。さらにICMやTEとの核型比較解析の結果、BFはICMやTEには持たない染色体異常が多く散見された。
考察
これらの結果からBFにはICMやTEと比較して断片化した質の低いDNAが浮遊していることが示唆された。これは複数の染色体に異常を持つためにアポトーシスした細胞が胚盤胞腔に流れたためだと考えられる。以上の結果により、BFによる染色体検査は、侵襲性が低いという利点はあるものの、胎児の核型を判定しているとは言い難く、また判定不能のケースが多いことから、実用性は低いことが考えられる。
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移植可能な多核胚の選別基準の検討(日本受精着床学会雑誌Vol.33)
著者名:松田 有希野、吉貝 香里、新井 千登勢、澤田 祐季、中野 英子、澤田 富夫
多核胚では染色体異常が多いなどの報告もあるが、多核胚が必ずしも正常産に至らないという確証はない。臨床的妊娠成立後の胚をタイムラプスイメージを用いて胚を観察することで分割期での多核の観察が可能になったことにより、後方視的に検討し、移植可能な多核胚の選別基準を検討した。単一胚移植を行い、臨床的妊娠・妊娠予後が確認できた50症例54周期のうち、出産に至った多核群(出産多核群、n=33)と流産に至った多核群(流産多核群,n=21)を対象とした。採卵時平均年齢で両群に有意差があったことから35歳未満と35歳以上で区切り、双方でそれぞれ胚移植条件を設けることにした。35歳以上で7細胞期から8細胞期までの時間が流産多核群で有意に長かった。また、compaction時の細胞数で年齢に関係なく10細胞期以下では流産に至る可能性が高かった。さらに、全年齢で最終細胞分割から拡張胚盤胞形成までの時間経過が流産群では延長することが判明した。これらを参考に出産できる多核胚を選択することが重要と考えられる。 閉じる
2017年
2016年