学会・論文発表

胚盤胞腔に見られる染色体核型の由来 (2017年 第62回 日本生殖医学会)

〇吉貝香里1、松田有希野1、加藤武馬2、加藤麻希2、新井千登勢1、浅井菜緒美1、中野英子1、倉橋浩樹2、澤田富夫1

1さわだウィメンズクリニック、2藤田保健衛生大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門

目的

近年、PGSやPGDの生検に胚盤胞期における栄養外胚葉(TE)が用いられることが多い。割球生検と比較してTE生検が胚の着床に影響しないことが報告されているが、TEで観察された染色体核型が内細胞塊(ICM)を反映していないという報告もある。また、侵襲性の低い方法として、胚盤胞期における胚盤胞内部の液体である胞胚腔液(Blastocoele fluid:BF)を用いる方法も着目されている。

 

方法

2017年1月~3月までに採卵し、当院の凍結基準を満たさず廃棄となった21個の胚盤胞を用い、患者同意を得て研究を行った。患者年齢は33.8±3.6歳であった。胚盤胞期のICM, TE, BFをそれぞれ採取し、全ゲノム増幅後、次世代シーケンサーで染色体検査を行った。次に得られた結果からBFが初期胚の染色体検査に有用か、またBFに存在する核型の由来をICMとTEで比較した。

 

結果

BFから全ゲノム増幅した検体は18/21で、増幅DNA量がICMやTEと比較して少なかった。また染色体解析の結果、ICMやTEと比較してノイズが高く核型の判定が不能となる検体が多かった。さらにICMやTEとの核型比較解析の結果、BFはICMやTEには持たない染色体異常が多く散見された。

 

考察

これらの結果からBFにはICMやTEと比較して断片化した質の低いDNAが浮遊していることが示唆された。これは複数の染色体に異常を持つためにアポトーシスした細胞が胚盤胞腔に流れたためだと考えられる。以上の結果により、BFによる染色体検査は、侵襲性が低いという利点はあるものの、胎児の核型を判定しているとは言い難く、また判定不能のケースが多いことから、実用性は低いことが考えられる。

 

移植可能な多核胚の選別基準の検討(2016年 日本受精着床学会雑誌Vol.33)

著者名:松田 有希野、吉貝 香里、新井 千登勢、澤田 祐季、中野 英子、澤田 富夫

 

多核胚では染色体異常が多いなどの報告もあるが、多核胚が必ずしも正常産に至らないという確証はない。臨床的妊娠成立後の胚をタイムラプスイメージを用いて胚を観察することで分割期での多核の観察が可能になったことにより、後方視的に検討し、移植可能な多核胚の選別基準を検討した。単一胚移植を行い、臨床的妊娠・妊娠予後が確認できた50症例54周期のうち、出産に至った多核群(出産多核群、n=33)と流産に至った多核群(流産多核群,n=21)を対象とした。採卵時平均年齢で両群に有意差があったことから35歳未満と35歳以上で区切り、双方でそれぞれ胚移植条件を設けることにした。35歳以上で7細胞期から8細胞期までの時間が流産多核群で有意に長かった。また、compaction時の細胞数で年齢に関係なく10細胞期以下では流産に至る可能性が高かった。さらに、全年齢で最終細胞分割から拡張胚盤胞形成までの時間経過が流産群では延長することが判明した。これらを参考に出産できる多核胚を選択することが重要と考えられる。

プロトコル、E2値が多核胚発生に及ぼす影響 (2016年 第61回 日本生殖医学会)

○松田 有希野、新井 千登勢、浅井 菜緒美、吉貝 香里、中野 英子、澤田 富夫

目的
多核胚の移植により健常児が出生していることから、多核胚が移植対象となってきている。しかし、当院での経験で多核胚は単核胚より良好胚発生率が低い。プロトコルやE2値などの違いにより多核胚発生率が異なるという報告があることから、当院でも比較検討を行った。

方法
2015年1月から12月までに採卵を行った151症例173周期のうち、正常受精後2細胞に分割し、核相が判明した461個の胚を対象とし、それぞれ採卵決定時E2値、プロトコル別の多核胚発生率、多核胚の胚盤胞発生率について比較検討した。

結果
採卵決定時E2値は、Long法2035.2±511、antagonist法1573.2±598、クロミッド法1639.1±562であり、Long法がantagonist法やクロミッド法と比べて有意に高かった。プロトコル別多核胚発生率は、Long法57.8%(89/154)、antagonist法60.4%(113/187)、クロミッド法59.2%(71/120)であり、発生頻度に差は認められなかった。多核胚の胚盤胞発生率についても、Long法37.5%(24/64)、antagonist法34.4%(22/64)、クロミッド法27.3%(9/33)であり、差は認められなかった。

考察
当院の検討結果ではE2値の高低差や、プロトコル別で多核胚発生率に有意差がないことから、E2やプロトコルの違いに関係なく多核は発生することがわかった。よって、患者にあったプロトコルを使用し、採卵を行うのがよいと思われる。

2細胞期における不均等分割が及ぼす胚発生への影響 (2016年 第61回 日本生殖医学会)

○松田 有希野、新井 千登勢、浅井 菜緒美、吉貝 香里、中野 英子、澤田 富夫

目的
分割期胚移植をする際、発生初期での形態学的評価が重要となってくるが未だ確立されたものは見つかっていない。しかし、2細胞期における不均等分割が発生の指標となる可能性が報告された。当院でも同様に2細胞期における不均等分割が発生の指標になるか検討を行った。

方法
2015年1月から12月までに採卵を行った151症例173周期のうち、タイムラプスインキュベーターで連続培養を行った正常受精卵893個のうち、2細胞期に分割した505個を対象とした。細胞の最大断面積を計算で求め、2細胞の面積差が800μ㎡未満を均等群、800μ㎡以上を不均等群とし、採卵時平均年齢、媒精方法による違い、多核の発生率、胚盤胞発生率、良好胚盤胞発生率を比較検討した。なお、多核の判断は2細胞期で行い、良好胚盤胞は、Gardner分類4BB以上とした。

結果
採卵時平均年齢は均等群、不均等群双方に差はなかった。媒精方法では、C-IVFで均等群60.0%(54/90)、不均等群40.0%(36/90)、ICSIで均等群62.4%(259/415)、不均等群37.6%(156/415)となり差はなかった。しかし、多核胚発生率は、均等群で54.0%(169/313)、不均等群で75.5%(145/192)となり不均等群で有意に高かった。また、胚盤胞発生率、良好胚盤胞発生率は、均等群で76.9%(120/156)、63.3%(76/120)、不均等群で56.6%(64/113)、50.0%(32/64)となり、胚盤胞発生率で有意に不均等群が低かった。

考察
今回の検討より、2細胞期での不均等分割は年齢や媒精方法の違いで発生するものではないが、胚の発生に負の影響を及ぼす可能性が示唆された。よって、2細胞期で不均等分割を起こした胚は初期胚凍結または初期胚移植を避け、胚盤胞まで継続培養するのが良いと思われた。

NGSを用いた染色体解析における多核胚の評価 (2016年 第61回 日本生殖医学会)

〇吉貝香里1、松田有希野1、加藤武馬2、加藤麻希2、新井千登勢1、浅井菜緒美1、中野英子1、倉橋浩樹2、澤田富夫1

1さわだウィメンズクリニック、2藤田保健衛生大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門

目的

Time-lapse cinematographyの導入により、胚発生過程の連続撮影が可能となり、それに伴い多核胚が頻繁に観察されるようになった。多核胚は、その発生速度が遅いことや、高確率で染色体異常が認められるとの報告がある。そこで我々は、Embryo ScopeTM  ( ES ) で形態観察し、その後廃棄となった多核胚のNext Generation Sequence ( NGS ) 解析を行ったのでその結果を報告する。

 

対象・方法

2013年1月~2015年1月に採卵し、ESで形態観察した8症例のうち2細胞期~8細胞期において多核を有する胚で、妊娠成立後に廃棄となった胚盤胞12個を患者の同意を得てNGSを用いて染色体解析を行った。患者の平均年齢は33.9±4.0歳であった。

 

結果

12個の胚盤胞のうち、正倍数の核型を持つと考えられる胚は5個(41.7%)であった。その他の胚は、16番染色体の異常が4個と最も多く(57.1%)、また複数の染色体異常が認められる胚も4個(57.1%)であった。患者年齢の比較では正倍数胚と染色体異常胚の間で有意差はないものの、染色体異常胚の患者年齢が高い傾向にあった。

 

結論

今回の多核胚のNGS解析において、染色体異常を有する胚もあれば、40%程度であったが正倍数を持つと考えられる胚もあることから、多核の原因が必ずしも染色体異常にあるとは言えないと考えられる。16番染色体異常は、流産胎児染色体検査で高頻度に検出されるものである。今回の胚盤胞NGS解析段階でもこの染色体異常が散見された。その他の染色体異常を有する可能性があるが、それらの胚は胚盤胞まで到達せずに、発生停止胚となっているとも考えられる。以上より、多核胚は必ずしも移植から除外する必要性はないが、妊娠しても流産する可能性が含まれていることに留意する必要性があると考えられ、将来のPGSの重要性が指摘される。