学会・論文発表

単一胚盤胞移植における2種類のワンステップ融解液と従来法の比較(2026年 第44回日本受精着床学会)

松田 有希野 吉貝 香里 鈴木 篤智 田中 麻莉  岩瀬 礼子 中野 英子 澤田 祐季 澤田 富夫

【目的】
近年、Thawing solutionのみを用いたワンステップ融解法が従来の融解方法より成績が向上、または従来法と同等の成績であることが報告されている。今回、当院で行った単一胚盤胞移植の結果を元に、2種類のワンステップ融解液と従来法の臨床結果を比較検討した。

【方法】
2024年1月から2025年12月までに当院で単一胚盤胞移植を行った286症例427周期を対象とした。従来法(214周期)とワンステップ融解法をA融解液法(42周期)、B融解液法(171周期)で分けて臨床成績を比較した。また、4BB以上を良好胚盤胞、それ以下を不良胚盤胞と定義した。

【結果】
単一胚盤胞移植の結果を、A法、B法、従来法で比較検討した。着床率は、A法38.1%(16/42)、B法43.9&(75/171)、従来法43.5%(93/214)、臨床妊娠率はA法33.3%(14/42)、B法40.9%(70/171)、従来法40.2%(86/214)となり、有意差はなかったがA法が低い傾向にあった。
移植プロトコル別で分けた場合の臨床妊娠率は、HRT周期で、A法33.3%(11/33)、B法43.6%(58/133)、従来法38.2%(66/173)、自然周期で、A法33.3%(3/9)、B法34.2%(13/38)、従来法48.8%(20/41)となり有意差はなかった。
良好胚盤胞移植での着床率を見た場合、良好胚盤胞群ではA法40.0%(14/35)、B法51.1%(68/133)、従来法43.4%(75/173)となり、有意差はないもののB法で高い傾向にあった。また、不良胚盤胞移植での着床率は、B法21.1%(8/38)、従来法で43.9%(18/41)、臨床妊娠率は、B法18.4%(7/38)、従来法(41.5%(17/41)となり、従来法でどちらも有意に高かった。

【結論】
単一胚盤胞移植を行う際、ワンステップ融解法は従来法とほぼ同様の妊娠結果が示されることから、胚培養士の作業時間軽減に繋がる新しい融解法であることが示唆された。しかし、不良胚盤胞での結果が低い傾向にあることから、低評価の胚は従来法で融解するなど臨機応変に対応する必要があると思われた。

ヒト胚の初期不規則分割が胚移植成績に及ぼす影響(2023年 日本臨床エンブリオロジスト学会雑誌Vol.25)

冨田 麻莉 , 渡辺 真一 , 鈴木 篤智 , 松田 有希野 , 吉貝 香里 , 中野 英子 , 澤田 富夫

ヒト胚の初期不規則分割として観察されるdirect cleavage (DC) やreverse cleavage (RC) が培養成績および移植成績に影響を及ぼすかについて過去の報告では見解が分かれている。これらの動態の影響を明らかにするため、単一初期胚移植 (1050個) と単一胚盤胞移植 (531個) を行った胚を対象として、第二分割までの動的観察を行い、各動態の臨床成績への影響を後方視的に検討した。
第一分割でDCが見られた胚は、第二分割まで正常分割だった胚より初期胚移植妊娠率が有意に低かった (P<0.05) が、第二分割のDCおよび第二分割までのRCは妊娠率に影響しなかった。一方で、胚盤胞移植成績はDCおよびRCの影響を受けなかった。 このことから、第一分割でDCが見られた胚は、初期胚の移植順位を下げる、もしくは胚盤胞培養を行うべきと考えられた。さらに、RCは初期胚及び胚盤胞移植成績に影響を及ぼさないことが示された。以上のことから、胚盤胞移植では、いずれの分割様式であっても移植に用いることに問題はないことが示された。

初期不規則分割胚の発生能は正常分割細胞の残存量から推測できる(2024年 第65回日本卵子学会)

渡辺 真一 冨田 麻莉 鈴木 篤智 松田有希野 吉貝 香里 中野 英子 澤田 富夫

【目的】
1細胞が3細胞以上に分割するdirect cleavageが胚盤胞発生率を低下させることが知られているが、direct cleavageには2細胞にならず直接3細胞以上に分割する場合(true direct cleavage, TDC)と、2細胞となった後早期(5時間以内)に片方の細胞が分割する場合(rapid cleavage, RaC)があり、第一分割でこれらが見られた場合、後者の胚は早期分割しなかった細胞が存在するため前者と比較して胚盤胞発生率が高いことを我々は過去に報告した(2023ESHRE)。今回、第二分割までにこれらの動態が見られた胚を分類して発生能を比較し、その分類が胚評価に利用可能か検討した。

【方法】
2021-22年に当院で採卵され、胚盤胞培養された正常受精胚1,327個を対象とした。第二分割までにTDCまたはRaCが見られた胚について、第一分割TDC群、第二分割TDC群、第一分割RaC群、第二分割RaC群に分類して、良好胚盤胞(Gardner分類4BC以上)発生率を比較した。なお、複数の細胞にTDCまたはRaCが見られた胚、および細胞の融合が見られた胚は検討から除外した。

【結果】
良好胚盤胞発生率は、第一分割TDC群5.6% (6/108), 第二分割TDC群34.6% (27/78), 第一分割RaC群33.2% (103/310), 第二分割RaC群50.0% (27/54)であり、第一分割RaC群と第二分割RaC群は第一分割TDC群より有意に高かった(P<0.05)。 【結論】 TDCを起こした細胞は全てTDC由来となり、RaCでは関連した細胞のうち50%がRaC由来となる。各不規則分割に由来しない正常分割細胞の残存量を考えると、第一分割TDC胚は0%、第二分割TDC胚と第一分割RaC胚はいずれも50%、第二分割RaC胚は75%となる。良好胚盤胞発生率もおおむねその量に対応していることから、不規則分割の発生段階や種類を観察して、正常分割細胞量を把握することで胚の発生能を推測することが可能である。

ヒト胚初期不規則分割と染色体解析(2023年 第22回生殖バイオロジー東京シンポジウム)

渡辺 真一

胚の初期不規則動態として、1細胞が短時間のうちに3細胞以上に分割するdirect cleavage(DC)が知られる。DCは染色体の異常分配を招き胚盤胞発生率を低下させるが、胚盤胞に到達すれば移植妊娠率は低下しないとの報告は多い。
当院で染色体解析を行った胚盤胞(研究使用の同意を得た廃棄胚)を初期分割様式によって分類したところ、DCが見られた胚盤胞の正倍数率は初期分割正常胚盤胞と同等であった。なぜそうなるのか? 理由を探るため、初期分割後の割球がそれぞれその後胚盤胞を形成しているか否かをタイムラプス動画で観察すると、第二分割まで正常な割球は9割以上が胚盤胞を形成していたのに対し、第二分割までのDCで形成された割球は約5割しか胚盤胞を形成しておらず、この「異常割球の除外」によって胚は正常性を保っていると考えられた(Watanabe et al. F&S Science 2023)。しかしDC胚はリペアのためのコストとして「除外される分の細胞量」を支払うことになり、発育速度と胚盤胞のグレードが低下する。DC胚盤胞の移植妊娠率は低いとする報告も散見されるが、凍結基準が緩い場合そうした結果となるかもしれない。
一旦分割した割球が融合するreverse cleavage(RC)にもしばしば遭遇するが、RCの胚発生能や妊孕能への影響についてコンセンサスは得られていない。我々の検討では、RCが見られた胚盤胞の正倍数率は初期正常分割胚盤胞よりも有意に高い、という結果が出て解釈に苦しんでいる。RCには、正常分割後の融合で4倍体を形成する場合と、DC後の融合があると考えられる。後者の場合、異常分割細胞が融合により「修復」されているかも知れないと考え、融合細胞の胚盤胞形成率を調べたが、そのような結果は得られなかった(2023受着)。現在のところRCは4倍体形成、もしくはDC後の無意味な挙動であると認識せざるを得ない。

Reverse cleavageは異常分割細胞の自己修復の意味を持つか?(2023年 第41回日本受精着床学会)

渡辺真一 鈴木篤智 冨田麻莉 松田有希野 吉貝香里 中野英子 澤田富夫

【目的】
胚の初期不規則動態として、一旦分割した割球が融合するReverse cleavage(RC)が知られているが、RCが胚発育や妊孕性にどのような影響を及ぼすかは意見の一致を見ていない。RCには正常分割後の融合とdirect cleavage(DC、1細胞が短時間で3細胞以上に分割する動態)後の融合があり、前者は4倍体形成を招くと考えられるが、後者は異常分割細胞が修復される可能性が考えられる。今回、DC由来割球と、DC後に融合した割球のその後の発育を比較し、RCの意義を検討した。

【対象と方法】
2020-2021年に採卵されEmbryoScope(Vitrolife)で5日間以上培養された835個の胚のうち、2細胞期となった後5時間以内に分割(以下早期分割)が起こり3細胞以上となった胚185個を対象とした。早期分割した割球について、その後融合しなかった場合をDC割球、融合した場合をRC割球として、それらのその後の発育を観察し、胚盤胞を形成したか否かを記録した(なお、有核の構造物を「割球」、完全に分割した割球が融合することを「RC」と定義した)。

【結果】
DC割球を持つ胚(DC胚)は174個、RC割球を持つ胚(RC胚)は11個であった。割球の胚盤胞形成率はDC割球21.6%、RC割球37.1%で有意差はなかったがRC割球が高い傾向が見られた。胚の良好胚盤胞(4BC以上)発生率はDC胚38.5%(67/174)、RC胚45.5%(5/11)で有意差はなかった。単一胚盤胞移植生産率はDC胚18.8%(3/16)、RC胚0%(0/1)であった。

【結論】
 早期分割した割球がその後融合することで割球の胚盤胞形成率が増加する傾向が見られたが有意差はなく、この融合が異常分割細胞の修復であることは示されなかったが、今後対象を増やすことで詳細を明らかにしたい。