学会・論文発表

Direct cleavageで発生した割球はその後どうなるのか(2021年 第42回 中部生殖医学会)

渡辺 真一 吉貝 香里 冨田 麻莉 鈴木 篤智 松田 有希野 中野 英子 澤田 富夫

さわだウィメンズクリニック

 

【目的】

Direct cleavage(1細胞が3細胞以上に分割する現象、以下DC)は染色体分配異常を起こすことが知られている。初期分割でDCが見られた胚は胚盤胞発生率が低下するが、胚盤胞に到達すれば移植妊娠率は低下しないとの報告は多い。しかしDCで発生した割球がその後どのように発育してそのような結果となるのかは明らかでない。今回、原因を探るべくDC胚のその後の発生過程を観察、検討した。

 

【方法】

対象は2021年1-3月に採卵してEmbryoScope(Vitrolife)でタイムラプスモニタリングを行い、第一分割でDCが見られた63個の胚(DC群)。DCで発生した割球についてその後の発育を観察し、DC後分割進まず(分割停止)、分割は進むがコンパクションせず(コンパクション除外)、桑実胚の一部となるが胚盤胞にならず(桑実胚化)、胚盤胞の一部となる(胚盤胞化)の4類に分類して割合を算出した。対照として、第一・第二分割正常胚81個(正常群)の割球を同様に分類した。

 

【結果】

DC群の割球は分割停止:24.8%、コンパクション除外:43.5%、桑実胚化: 2.3%、胚盤胞化: 29.3%、正常群ではそれぞれ2.5%、9.3%、0%、88.2%であり、DC群の割球の胚盤胞化率は有意に低かった(P<0.01)。良好胚盤胞(Gardner分類4BC以上)発生率はDC群30.2%、正常群79.0%で正常群が有意に高かった(P<0.01)。

 

【結論と考察】

DCで発生した割球は約7割が分割停止またはコンパクションしないことが示された。これによりDC胚の胚盤胞発生率が低下すると考えられた。また我々は過去にDCは胚盤胞到達後の正倍数率を低下させないことを報告した(2020卵子学会)が、その理由の一つとして、DCで発生した重度の染色体異常割球は胚盤胞形成から除外され胚盤胞の正倍数性に影響しないことが推測された。

 

当院の新規患者は1年以内にどれくらい妊娠できるか(2021年 第42回 中部生殖医学会)

松田 有希野、渡辺 真一、冨田 麻莉、鈴木 篤智、吉貝 香里、中野 英子、澤田 富夫

【目的】

現在、一般的に公表されている妊娠成績は、新規患者と継続治療中の患者を区別せず出されている。また、1年間にどの様な治療が行えるかといった目安は示されていない場合が多く、患者にとって不妊治療のスケジュールが把握しにくい状態にある。

今回、患者への情報提供のため、新規患者のみを対象とし、1年間当院で検査・治療を受けた場合の1年以内の妊娠成績を元に、治療のステップアップのための目安を検討した。

 

【方法】

2019年に新規来院し、1年間検査・治療を継続した患者339名を対象とした。治療はタイミング療法、AIH治療、IVF-ETの3群に分類した。症例毎の妊娠率を34歳以下、35~39歳、40~43歳、44歳以上の4群に分け検討した。

 

【結果】

年齢別の妊娠率は、年齢区分順に、タイミング療法で61.1%、42.2%、27.3%、0%だった。AIH治療では47.1%、25.0%、7.1%、44歳以上の患者の実施はなかった。IVF-ETでは60.4%、53.5%、53.8%、0%だった。タイミング療法、AIH治療については、34歳以下と比較した場合、その他の群で有意に妊娠率が低い結果となった。しかしIVFでは有意差はなかった。

また、妊娠成功率の90%以上に到達する治療期間、回数をステップアップのへの目安の期間、回数であると考えると、タイミング療法で34歳以下、35~39歳、40~43歳で、各々6ヶ月、4ヶ月、1ヶ月であった。AIH治療では4回、4回、2回であった。

 

【考察】

今回の結果から、新規患者の治療における年齢別の妊娠率およびステップアップの目安の期間、回数が明らかとなった。不妊治療の開始またはステップアップを考えているカップルへの有益な情報になると考える。

 

PGT-A バイオプシー技術とラボ環境整備(2021年 第17回東海ARTカンファレンス)

渡辺 真一

 

2019年より日本産科婦人科学会PGT-A多施設共同臨床研究が開始され、多くの施設でPGT-Aが行われている。ART施設で要求される技術は、バイオプシーおよび生検細胞のチュービングが主となる。

PGT-Aのためのバイオプシーは、現在ではTE数個の生検が主流となっている。TE生検手技はこれまでフリック法、レーザー+吸引法等が考案されているが、どの方法が最も優れているというようなエビデンスはない。通常使用される範囲のレーザー使用は生検細胞の検査結果に影響しないとの報告があるが、過度のレーザー使用は胚盤胞自体に有害な可能性があり、また多数のTE採取は移植妊娠率を低下させるため、生検技術は検査結果のみならず妊娠・出産の成否に対しても極めて重要である。生検の前に透明帯を開口するタイミング等も施設により考え方が異なる。今回は当ラボでの基本的なバイオプシーの手技と流れを紹介したい。

なお、胚バイオプシーはこれまでの培養室業務に追加される業務となるため、症例数によっては他業務を圧迫する。業務の大幅な増加はスタッフの疲弊や各業務の劣化を招くため、そうならないよう業務の流れを整えることや、場合によってはスタッフ増員の必要もあるかも知れない。施設長およびラボ管理者はこの点を考慮してPGT-Aを実施するべきである。

 

Short inseminationとタイムラプス観察による前核見逃しの防止と胚の妊孕性の評価(2020年 第65回 日本生殖医学会)

松田 有希野、渡辺真一、冨田麻莉、鈴木 篤智、吉貝香里、中野英子、澤田富夫

目的】現在多くのART施設では,媒精後20時間前後でC-IVFの受精確認が行われている.しかし,20時間前後での受精確認では前核消失による見逃しが起きてしまうこともあり,過去の報告でそれは10%程であるとされている.よって,見逃しを防ぎより確実に受精確認を行うため,従来のLong inseminationと今回行ったShort inseminationとタイムラプス観察を組み合わせた新しい確認方法で受精結果に違いがでるか検討した.

【方法】2018年1月から2020年5月の間に採卵し,C-IVFを行った163症例171周期を対象とした.Long insemination(Long群)は媒精から18~19時間,Short insemination(Short群)は媒精から5時間で裸化を行い,タイムラプスモニタリングインキュベーター(EmbryoScope, Vitrolife)での培養を開始した.それぞれの2PN率,不受精率,異常受精率,前核不明率,妊娠率の比較を行った.前核が確認できず,その後分割が見られた胚を前核不明とした.

【結果】Long群,Short群それぞれの受精結果は2PN率57.4%(389/678),67.9%(256/377),不受精率29.2%(198/678),21.0%(79/377),1PN率3.5%(24/678),2.1%(8/377),3PN率7.2%(49/678),9.0%(34/377),前核不明率2.7%(18/678),0%(0/377)であった.Long群と比較してShort群では2PN率が有意に高く,不受精率が有意に低かった.さらに前核不明率もShort群で有意に低かった.また,初期胚移植と胚盤胞移植の妊娠率はLong法で20.3%(16/79),34.2%(13/38),Short法で34.4%(11/32),42.9%(3/7)であり,有意差はなかった.

【結論】Short inseminationとタイムラプス観察の組み合わせでは,前核を見逃すことがなくなったため,2PN率が高率であったと考えられる.また,妊娠率に有意差がないことから,早期裸化による胚への影響もないと思われる.

精子因子が異数性に与える影響(2020年 第65回 日本生殖医学会)

鈴木篤智1、吉貝香里1、加藤 武馬2、松田有希野1、冨田麻莉1、渡辺真一1、中野英子1、倉橋 浩樹2、澤田富夫1

1)さわだウィメンズクリニック、2)藤田医科大学総合医科学研究所分子遺伝学研究部門

 

目的

我々は以前、精子濃度の減少と運動率の低下が正倍数胚の数を減少させる要因である可能性を示唆した(生殖医学会2019)。今回新たにデータ数を追加し、NGSで染色体解析した胚の受精時の精液所見から正倍数胚率に影響を与えているか再検討した。

 

方法

研究同意を得られた廃棄胚盤胞109個をNGS解析に供した。これらの胚のIVF/ICSI時精液所見について精子濃度または運動率により、正倍数率を比較検討した。精子濃度は<5×106ml(A群)、5~10.0×10⁶/ml(B群)、10.0~15.0×10⁶/ml(C群)、15.0~20×10⁶/ml(D群)20.0~30×10⁶/ml(E群)>30×10⁶/ml(F群)の6群、運動率は<20%、≦20~30%、≧40%で分類した。

非モザイク異数性胚は、卵子側の要因による影響を考慮し、今回の検討から除外した。有意差検定はt検定とFisherの正確確立検定を用いた。

 

結果

解析の結果、正倍数胚71個、モザイク異数性胚38個であった。正倍数胚、モザイク異数性胚ともに夫年齢、妻年齢に有意差はなかった。精子濃度別の正倍数胚率の比較では、A、B、C、D、E、F群それぞれ50.0%、100%、46.2%、50.0%、80.8%、64.3%であり、A群とE群、C群とE群でそれぞれ有意差があった(p<0.05)。運動率別の正倍数胚率は、<20%、≦20~30%、≧40%でそれぞれ20.0%、100%、63.8%であり、<20%と比較して≦20~30%で有意に高かった。

 

結論

精子濃度が減少すると、正倍数胚率が低下する傾向にあることが示唆された。また、運動率が低下すると正倍数胚率の低下が認められた。さらなる検討が必要であると考えられる。